フォト
無料ブログはココログ

« 差別から何が生まれるのか──尊敬すべき白丁の文化 | トップページ | まづろわぬ文学 »

2016年3月14日 (月)

ユ・シミン『ボクの韓国現代史』(三一書房)

民主主義は闘い続けなければ奪われる

 昨年、済州島四・三平和賞を受賞した在日朝鮮人作家金石範が、大韓民国成立時の李承晩(イ・スンマン)政権についてその正統性を問う発言をした。これに韓国の右翼勢力が反発し金石範の韓国入国が拒否された。金石範の李承晩政権批判は今に始まったことではない。朝鮮半島の南半分だけで、アメリカの支配下に成立した李承晩の大韓民国は、日本植民地時代の旧親日勢力を免罪糾合して人民支配の手足とした。金石範が生涯の文学的イシューとした四・三事件は、李承晩の南朝鮮のみにおける単独選挙と単独政府樹立に反対する運動から始まった。
Photo ユ・シミン『ボクの韓国現代史』は1948年に起きた四・三事件に紙幅を多く割いてはいない。しかし韓国の現代史を考える上で大韓民国の成立を無視して語ってはいない。
 ユ・シミンは植民地支配から解放された新生国に三つの条件を付加している。第一に、祖国解放を目指して努力し献身した人々が国を打ち立てて運営しなければならない。第二に、民衆を貧困から解放し物質面で暮らしを改善しなければならない。第三に、憲法によって自由と人権を保障し、主権在民の原理を実現して政治的正統性を有する政府を打ち立てなければならない。李承晩政権は〈ひたすら権力の甘い汁を吸うことにのみ没頭〉したからそこに民主的正当性は無い。
 韓国民の現代史は、民族史的正統性を持たないというマイナスから始まり、国家権力に屈従した歳月を経て民主主義を闘いとった。
〈いま僕らにできることは、韓国が民族史的な正統性を欠いたまま出発した理由とプロセスを厳しい目で評価し、哲学的に消化することのみである。〉
 さて、『ボクの韓国現代史』には「1959-2014」という副題が付くが、これは1959年生まれである著者の個人史と重なるということを示している。ユ・シミンは歴史は主観的な記録であるという正直な前提のもとにこの本を書いた。だから韓国現代史の中で著者がどう生きたかを読者は見せられながら読む。ユ・シミンは韓国現代史を二つの勢力の矛盾として書いている。5・16軍事クーデターと産業化の時代を代表する勢力と、4・19革命、光州民衆抗争、民主化の時代を代表する勢力だ。著者は後者に属している。
 著者の生まれた翌年1960年「4・19学生革命」が起き、李承晩は大統領の座を追われハワイへ逃げた。〈4・19は新生国である韓国が正統性を有する国民国家へと向かって踏み出した第一歩だった。〉しかし、翌年5・16と呼ばれる朴正煕(パク・チョンヒ)による軍事クーデターによって、その後延々と軍事政権が続く。朴正煕は民主主義を徹底的に残酷なまでに弾圧しながら、一方で「開発独裁」という手法で韓国経済を成長させた。(現代韓国が抱える財閥偏重の歪んだ資本主義はその後遺症ではないかと思う。)
 その後1980年の光州民衆抗争を経て、1987年の6月民主抗争で全斗煥政権を倒すまで、独裁政権は続いた。そこまでだけでもどれほどの犠牲を払ったか。どれだけ死者を出したのか。〈専制政治を打倒する民主主義政治革命の唯一の方法は、民衆が抵抗権を行使すること〉なのだ。著者自身も死を覚悟したことがあった。私たち日本の国民にそれほどの覚悟が出来るだろうか。懸念が脳裏をよぎる。
 今はまだ存在する民主主義を奪われてはならない。立憲民主主義を支持し戦争に反対する全ての日本の市民も知るべし。一度三権分立の箍が外され政権担当者が独裁的権力を振るい始めると、民主主義を取り戻すまではたいがいなことではない。膨大な犠牲と歳月を払うことになる。
 金石範は朴槿恵政権が歴史を逆行しようとも、選挙で選ばれた政権を否定したりはしていない。なぜなら韓国国民が自ら主体となって〈当初ゼロだった大韓民国の正統性をみずからつくりあげた〉からだ。日本人民学ぶべし。民主主義は闘い続けなければ奪われるのだ。

※この本だけでも充分に韓国現代史を学ぶことができるが、1945年以後、朝鮮戦争の時期も含めて全体的に把握しようと思えば、文京洙『新・韓国現代史』(岩波新書)が読みやすい。また現代韓国の経済的繁栄の基盤となった朴正煕時代の開発独裁について考えたければ、曺喜昖『朴正煕 動員された近代化』(彩流社)も参考になる。

« 差別から何が生まれるのか──尊敬すべき白丁の文化 | トップページ | まづろわぬ文学 »

「書評」カテゴリの記事

コメント

拙訳の書評を掲載していただき、ありがとうございます。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/571716/63344658

この記事へのトラックバック一覧です: ユ・シミン『ボクの韓国現代史』(三一書房):

« 差別から何が生まれるのか──尊敬すべき白丁の文化 | トップページ | まづろわぬ文学 »