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2015年10月21日 (水)

金石範さんの入国を韓国政府が拒否!

済州島四・三事件の歴史学的解明は大韓民国成立の正統性に疑義するか!?

01_2 10月、在日朝鮮人作家金石範(キムソッポム)さんの韓国訪問が妨げられた。金石範さんは済州島4・3事件をテーマにした長編『火山島』などで知られる作家だ。『火山島』は今年韓国で全巻の翻訳が出版され、ソウルで記念行事が開かれることになっていた。報道によると、金石範さんが韓国訪問を申請したところ、韓国政府が入国を拒否したとのことだ。在日韓国大使館は「旅券法に基づき審査した結果」とだけコメントした。
 金さんは今年4月、済州4・3平和賞を受賞し韓国を訪問、済州島で授賞式に臨んでいる。この賞は「済州4・3平和財団」が創設したもので、韓国政府や地元自治体も関係している。李承晩による大韓民国の成立に批判的な考えを持つ金石範さんに、韓国の右翼団体や保守マスコミが授賞取り消しを求めるなどの動きがあった。在日本大韓民国民団も盛んに金石範さんを批判し〈金石範氏の受賞で汚された「済州平和賞」〉とまで言っている。こうした論調に韓国の保守的な現政権が同調したと思われる。
 そもそも「済州4・3平和賞」とは、済州島4・3事件の真相究明に貢献したり、世界平和や人権伸長に寄与した人に贈られる。済州島4・3事件とは、1948年4月に済州島で起こった島民の蜂起に伴い、島民が軍や警察などに虐殺された歴史を仮にこう呼んでいる。金石範さんは事件が公にならない内から追求し解明に心血を注いできた。受賞に相応しい。
 しかし問題は大韓民国成立の正統性に関わる。金石範さんは以前こんなことを書いている。

   慰霊堂に祀られている一万三千余の犠牲者たちは「領民虐殺」による受難者であり、それ以外はゲリラ、アカの同調者だから殺されて当然とする島民を二分化する論理であって、これは全島民的な意思の代弁である四・三闘争の否定である。……実質的に「四・三事件」が抗拒の蜂起であり、抗争であり、民族解放闘争であることの位置付け、「歴史的定立」が必要だ。
   ……
   解放後一九四八年八月、四・三抗争のさなかに米軍占領下で成立した大韓民国は、過去歴史清算を葬った民族反逆者、親日派による政権、政府であるのは、韓国の極右勢力も否定できるものではない。憲法「前文」の臨時政府の法統(伝統)を継承した大韓民国政府というのは牽強付会となるだろう。
   しかしこの大韓民国の正統性の上に、四・三特別法も四・三委員会も成立しているのであって、この論議は“国家”の介在なしにはむつかしい。改めて大韓民国の「正統性」は何かを問われねばならぬことになるが、これはまず不可能。とすると、「正名」は統一のその日でなければできぬことになる。
   学問とか真理への道はそうであってはならぬだろう。真理は普遍的であって、国家の枠とか制度の枠を超えて明らかにされねばならない。歴史家たちはこの「国家の正統性」を超えて、「正統性」を否定しかねない論議をすべきではないか。親日、民族反逆、反歴史的な「過去」を清算することによって、建国当初の大韓民国の「正統性」は弁証法的に再び新しく定立される。四・三論議はその聖域まで踏み込まねばならない。それにはやはり一方の「国家」を超越する普遍の、自由の場の早期の実現を待たねばならぬか。しかし、学問はそのタブー、聖域に挑んで踏み込むものだろう。
                                  (「悲しみの自由の喜び」『すばる』2008年7月号)

 ここで言う「正名」とは「정명 ジョンミョン」、四・三という名称は記号で曖昧だから、内容をはっきりさせる定義をしようということだ。右翼勢力は四・三事件の犠牲を「良民虐殺」と定義し、共産主義者やその同調者を排除して定義しようとしている。金石範さんのように、李承晩政権の軍・警察と手下になった暴力団によって殺されたゲリラたちすべてを犠牲者と考える立場とは対立する。
 4・3事件の発端は南朝鮮単独政権樹立に反対する運動だった。即ちそもそも大韓民国建国に反対する運動だったのだ。南朝鮮労働党が指導するゲリラと米軍政、李承晩政権、右翼暴力団との闘いは熾烈を極め、双方及び無垢の島民を含め8万人もの犠牲者を出したと言われる。島民は、日本に脱出した人々においても事件について語ることは長い間禁忌とされていた。
 韓国の現政権が李承晩、朴正煕、全斗煥と続いた軍事独裁政権の正統を継ぐものであれば、金石範文学は敵性文学だ。しかし、韓国は民主化された社会だ。民主主義を渇望した国民の長い民主主義運動の勝利だ。ではなぜ金石範さんの入国は拒否されたのか。
 世界的な右傾化と無関係ではないだろう。日本では安倍ネトウヨ政権が特定秘密保護法や安全保障関連法を強行成立させ、全体主義国家化を進めている。排外主義が跋扈し、街頭で在日外国人やアイヌ、性的少数者、原発事故避難民などの対するヘイトスピーチが叫ばれ! 政治家は国民は国家のために働けと嘯く。そんな国粋主義的、民族主義的風潮は世界に広がっている。もちろん韓国でも右翼的民族主義運動の流れは止まらない。
 金石範さんは韓国を訪れる度に紀行文を書いてきた。朝鮮籍の金石範さんにとって韓国に行く場合韓国政府当局との折衝は大変な苦労だった。しかし金大中・盧武鉉と民主政権が続くと手続きも楽になってきて、紀行文のタイトルも「敵のいない韓国行」(『すばる』2005年6月)、「自由な韓国行」(『すばる』2007年1月)となって来ていた。韓国政府による金石範入国拒否は、韓国の民主主義の危機であると同時に済州島四・三事件の歴史学的解明が暗礁に乗り上げる危機も感じさせる。

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