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2014年7月 3日 (木)

キム・リョリョン『優しい嘘』 김려령 우아한 거짓말

文学と映画行ったり来たり 第31回
김려령
우아한 거짓말

 誰によって誰が救われるのか!!
「空気清浄機はあるのに、なんで心の清浄機はないの?」

 映画「阪急電車」に小学生の女の子が出てくる。同級生は軽い気持ちでからかっているのかも知れない。苛めにあっている小学生は凜として立ち向かうが、内心は酷く弱っていて誰かの助けを求めていた。阪急電車のホームで、偶然ある女性と出会っていなければ、少女の行く末が心配されるところだった。
Photo_2 韓国の小説『優しい嘘』のチョンジは、赤い糸で編んだ長い紐で首をくくって死んだ。チョンジは死ぬ瞬間まで、首を吊って椅子の上に立つ自分を姉と母が抱き止めに駆けつけることを夢見ていた。
 チョンジは母ヒョンスクと姉マンジとの三人家族だった。父は9年前に事故で死んでいた。温厚で繊細、口数は少ないが明るく笑顔を絶やさない、優しい心の持ち主であるチョンジが、自ら命を落とすなんて姉や母は想像すらしなかった。
 しかしチョンジは転校してきた小学生のときから、陰湿なイジメにあっていて、中学に上がっても続いていた。ずっとチョンジを嫌いながらも、チョンジの親友のように振る舞うファヨン。ファヨンは中華料理店の娘で劣等感と、その裏返しの虚栄心が強く、誰とも本当には友だちになれない。チョンジだけが、ある意味気を許せる相手だったのだ。
 チョンジの母ヒョンスクは、スーパーマーケットで働きながら二人の娘を育てるシングルマザーだ。気丈なヒョンスクはチョンジを失った後も明るく振る舞い、マンジを連れてファヨンの家の中華料理店が入っているアパートに引っ越した。
 姉のマンジは中学三年生、無愛想でおおざっぱな性格だ。マンジはチョンジの死ぬほどの苦悩に気づかなかったことに自責の念を抱いていて、その真相を調べ始める。ファヨンに会ったり、同級生のミランの妹でチョンジの級友であるミラの話を聞いたりする。ミラは父親がチョンジの母を追いかけ始めてから、チョンジに冷たくなっていた。ミランとミラ姉妹の父は無資格の不動産業者でヤクザのような生活をしており、生前の妻に対する打擲が日常だった。彼はスーパーで働くヒョンスクの生活力に目をつけ結婚を迫っていた。
 チョンジが隣家の髪の長い変なおじさんと図書館で会ったりして、親しくしていたこともマンジは知らなかった。市立図書館でチョンジが熱心に読んでいた本は、鬱病に関するものが多かった。チョンジは自分自身のために鬱病を調べていたのか。それとも誰かの為に? 真っ直ぐな性格のチョンジは果敢に闘っていた。その一つが国語の意見発表で、「粗暴な言葉が痼(しこ)りになって人を殺す場合もあります。あなたは予備殺人鬼ではないでしょうか」と述べたことだ。チョンジの凜とした態度はファヨンを動揺させた。
 やがてマンジは、チョンジが残して逝った毛糸玉の芯に手紙が隠されていることに気づく。毛糸玉は全部で5つある。もう一つは母が持っていた。それにミラが持っていたものも見つける。チョンジがファヨンに渡した毛糸は、気味悪がったファヨンがクラスで村八分になっているミソにやってしまったことが分かった。

02 あんたが本当に憎い
 だけど赦してあげる。私が逝ってもあんたは生きるのだから
 もう二度とあんなことがないように。もうあんたも苦しまないように。
 5個の封印された糸玉の中の3番目

 最後の一つは隠されている。果たしてそこには何が書いてあるのか? 答えは小説には出てこない。チョンジはなぜ死を選んだのか? この問題に解答はないのだ。私には、幼い時から屈折したファヨンを、チョンジが救おうとしていたように思えてならない。そして追い詰められたファヨンに手を差し出したのはマンジだった。
 小説は重いテーマを、ユーモラスな場面や会話を交えながら追って行く。謎は重層的に謎を生むが、ただ一つ明瞭なのは、大人の歪んだ心情と社会が子どもの心を歪めているのだということ。言い古された言い方だが、病巣は社会の奥深くに根を張っているのだ。
 作者のキム・リョリョンは1971年生まれの女性作家。映画にもなった『ワンドゥギ』で人気作家となった。このブログでも紹介している。
http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-9056.html
 この『優しい嘘』も映画化された。自殺した妹チョンジにキム・ヒャンギ。姉マンジに扮したコ・アソンと言えば、「グエムル─漢江の怪物」で怪物に連れ去られる中学生がすぐに思い出されるが、「冬の小鳥」で演じた孤児院の脚の悪い年かさの少女役で演技力を見せた。話題作「スノーピアサー」にも出演している。ファヨン役のキム・ユジョンはTVドラマ「トンイ」でトンイの子ども時代を任されて注目された。あの愛らしいトンイが悪役かと思うと、微かにときめく。監督は「ワンドゥギ」と同じイ・ハン監督。そのほか、隣のおじさんにユ・アイン、お母さんにキム・ヒエが扮して韓国ではすでに3月上映だそうだ。

【関連】文学と映画行ったり来たり第1回~第11回 http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/post-3648.html

[韓国文学]
チョン・イヒョン『マイスイートソウル』
http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-afca.html
鄭智我『歳月』http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/2014/09/post-dabb.html
チョン・セラン『アンダー・サンダー・テンダー』http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/post-cd9f.html
孔枝泳『犀の角のように一人で行け』http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/files/11.pdf
金承鈺『霧津紀行』http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/files/02.pdf

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