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2014年7月31日 (木)

灯台守の老人介護

チョ・チャンイン(趙昌仁)『クミョンに灯る愛』 (原題『灯台守』)小学館文庫
──老人介護は闘いだ。愛を感じるには時間がかかる

S_3 『クミョンに灯る愛』を読みながら、まず思ってしまうのは、老人との生活は糞尿との闘いだということだ。それでも「ライフリー軽快パンツ」があればそれほど苦労しなかったはずだ。おむつと言っても、それほど抵抗感なく使う人が多い。第一「おむつ」とは呼ばない。家では「紙パンツ」と呼んでいる。私の母も自分で履き、自分で脱いで捨てる。ジェウやジェウの同僚たちのように差別的視点で、使い捨てタイプの下着型おむつを見る人は、今やそれほど多くない。
 介護制度はどうなっているのか? 訪問介護が現代の日本程度にでも存在していれば、お母さんは、何年も音沙汰のない次男の住む孤島に追いやられなくても良かったのではないか? 認知症だからといって、鍵のかけられた部屋に閉じ込められることもなかったのでは? 認知症に対する認識の低さは酷すぎる。完治することは無理としても進行を遅くするための治療をせず、暗い部屋に閉じ込めておくなんて悪化させるだけだ。しかも施設に入れるという選択肢は、世間に恥ずかしいからという理由で排除されている。これが、この小説が発表された2001年当時の韓国人の一般的な思考様式なのだろうか。
 それと、灯台勤務がこれほど酷くバカにされていることにも驚く。勤務している人たち自身が自虐的になっている。灯台は日本でも2006年頃には全て無人化されて、灯台勤務の職員いわゆる灯台守は居なくなったらしいが、灯台守を差別しバカにする人間が日本にもいただろうか(どんな仕事でもバカにする愚か者はいるに違いないが…)。現在でも孤島に住んで勤務する人々は、気象関係とか建設・土木関係とかにいるのだと思うが、私ならまず尊敬の念で思い浮かべる。給与も離島手当とか付いたり、休暇とかも優遇されたりするんじゃないか(と思う)。
 『クミョンに灯る愛』は、最果ての孤島で灯台守(海洋水産庁航路標識課技術職公務員)として8年間勤務する32歳の男ユ・ジェウと認知症の母の物語だ。朝日新聞GLOBE「ソウルの書店から」で戸田郁子が紹介してくれたので読んで見た。このパターンで本を読むことは少なくない。
 さてジェウが住み働くクミョン島は10分あれば一周できてしまうほど小さい島で、絶景だが水道もなく、雨水を溜めて使う不便さ。航路もないので島から出るのもままならない。仕事は過酷で報われることも少ない。どうしてジェウは孤島の灯台守になったのか。
 ジェウの家族は母と兄・姉との四人だった。家族は金持ちのミナの家に間借りして、母は女中として働いた。(この感じは、なんだか韓国ドラマ『真実』を思い出す。ヒロインのチェ·ジウはパク·ソニョンの家に間借りしていた。パク・ソニョンは悪役でした。)
 ジェウは詩人になりたかったのだ。〈当時、ジェウは心の底から湧き上がる感情を詩以外に表現するすべを知らなかった。〉大学の国文科を卒業して詩人になりたい、という心情は理解しがたい。詩人というのは大学で勉強してなるものではないだろう。それにしても詩人になりたいと思うような青年だったのだ。貧しい家ゆえ母はジェウの進学を許さず、兄の勉強のために働かせた。兄と殴り合いをした寒い月の夜、ジェウは家を出た。その後家族とは連絡を取っていなかった。ジェウの居所を知っていたのはミナだけだ。
 兄から電話が来たのは認知症の母を持て余したからだった。そして突然、兄嫁が母を連れて島を訪ねる。兄はジェウを騙して母を押しつけ、カナダに移住してしまった。母とジェウの暮らしが始まる。それなりに穏やかな日々を送っていたジェウの生活に嵐が吹き荒れる。しかもリストラが始まり、ジェウも対象になってしまった。
 要介護老人との生活は楽ではない。しかもジェウは長年母を憎んで来た。母と息子の壁をどうしたらよいのか。差別と侮蔑、パワハラとおもねり、裏切り・猜疑心・不信、ジェウは愛を取り戻すのか。最後に母の愛を取り戻したとしても、このドラマは悲劇でしか終わりようがない。帯のコピー「韓国全土が泣いた!」は陳腐だが、本当に泣けてしまう。エピローグは優しい。退職したチョン所長や犬のハッピーの存在に癒やされる。誰しも苦しい過去を抱え、悲劇を踏んで生きているのだ。
 因みに作者チョ・チャンイン(趙昌仁)の前作『カシコギ』は、父の息子に対する無償の愛を描いてベストセラーとなった。これは、『グッとライフ』とタイトルを変えて2011年日本でTVドラマ放送されたそうだ

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