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2014年5月 9日 (金)

佐藤泰志 『そこのみにて光輝く』

文学と映画行ったり来たり 第30回
生きる価値を問い直す文学

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 生きることの辛さ悲しさの向こうにうっすらと灯が見える。絶望の中から生きる喜びがこみ上げてくる。そんな小説だ。著者の佐藤泰志(1949年~1990年)は、5回の芥川賞ノミネートにも拘わらず受賞に至らず、41歳で自死を選んだことにより、不遇の作家と呼ばれた。熱心な愛読者もいて、2007年には『佐藤泰志作品集』(図書出版クレイン)が発行された。
 
2010年末「海炭市叙景」が映画化されて再評価が進んだ。主要な作品が文庫本として再出版されるなど注目されている。
 
『そこのみにて光り輝く』は唯一の長編小説で、三島由紀夫賞、野間文芸新人賞の候補に挙がったが、やはり受賞は逃した。これも最近映画化されてテレビなどのマスコミで取り上げられた。主人公の達夫役を当世人気の綾野剛、義弟を菅田将暉が任されたこともマスコミの耳目を引くことに繋がった。
 
時代は高度成長期の函館辺り、資本の路線に乗ることもその反対側に身を置いて群れることも拒否した男、達夫は労使紛争ただ中のドックでの労働をやめ無為な日々を送っていたが、パチンコ屋で土方風の青年拓児に声をかけられたことから、彼の家族に深入りしていく。拓児の家族はその家だけ取り残されたバラックに住む。寝たきりなのに性欲だけ強い父と、その面倒で疲れ果てた母、売春で家族を経済的に支える姉千夏と、刑務所帰りの拓児の四人での辛い生活だ。拓児は単純で乱暴だが、正直でどこか憎めない。
 
達夫は退職金の半分を親の墓につぎ込み、あとは先行きも考えずにいた。捕らわれて河で働かされる海鵜のようには生きられないのだ。だからか達夫は拓児の家族に惹きつけられていき、いつしか千夏と関係していく。社会からはみ出し鼻つまみものとして生きる家族と出会い、女を愛するようになる。受け入れられない存在に共感する男の求めたものがいったい何なのか。妙に惹かれるのは現代の閉塞感と雰囲気が似ているからだろうか?
 
個の価値を希求して静かにもがく姿が、時代を反映しながらも現代の若者に通底しているように感じられ共感へと導く。
 
資本の要求に迎合する物書きが作家として大きい顔をする時代に、佐藤泰志はまるでアンチテーゼだ。資本主義の求める価値から遠いところに文学は成立している。
 
どこか厭世的な風景描写が巧みで音楽的、会話のリズムや風景描写が物語の展開と複雑に絡み合いながら流れる。佐藤泰志の魅力だ。映画はストーリーに脚色があるので、小説を読んで欲しい。

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