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2014年3月14日 (金)

「明日、ママがいない」「バービー」

文学と映画 行ったり来たり 第29回――不急順不同、起承転結な
醜い現実社会に子役たちは煩悶する

 日テレ「明日、ママがいない」は、天才子役と名高い芦田愛菜と鈴木梨央の共演で開始前から話題になったが、児童養護施設の施設長が乱暴だったり、赤ちゃんポストに捨てられた子が「ポスト」というあだ名で呼ばれていたりしたため、批判されることが多い。番組放送中止運動まで起こったらしい。
 ドラマは必ずしも客観的リアリズムを手法としてはいない。このドラマに関して言えば、施設に預けられたばかりの子どもの視点を客観としてデフォルメして始まった。そして複数の視点を入れ替えながら進行していくのだが、見かけ上はあくまで普通の客観的描写として構成されている。だから深刻だったり、ギャグっぽかったり、場面に一貫性がなくチグハグ感が拭えない。文学ならば大衆的な理解を得にくいのは仕方ないことだ。しかし、テレビドラマという大衆的娯楽媒体に相応しいかどうかは、議論のあるところだろう。
 実際に施設に通う子どもがからかわれる事例が多数報告された(2014年1月29日全国児童養護施設協議会発表)。経済的格差の拡大、貧困家庭の増加、それに心の衰弱。嫉みと劣等感。その裏返しとしての差別と高慢。仮想した敵を罵り叩くことによる歪んだ「仲間意識」。我々の社会は悪意に満ちていて、子どもたちは被害者だ。テレビドラマ「明日、ママがいない」は歪んだ社会に、それでも微かな希望の灯を点して見せた。しかし、このドラマの子役たちにとっては、辛い仕事だったのかも知れない。

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 児童福祉施設に預けられた少女の心の変化と旅立ちを、「明日、ママがいない」とは反対に、実に繊細に描いた映画に「冬の小鳥」があった。これは以前に紹介している。主演したキム・セロンもまた韓国では天才子役と呼ばれる。ウォン・ビンと共演した「アジョシ」なども評判になった。1911年、イ・サンウ監督作品「バービー」には、妹役の実の妹のキム・アロンとともに出演している。この映画は、決して面白い映画でも感動的な映画でもない。問題作ではある。
 小学生の娘スニョンは、知的障害のある父と病弱でわがままな妹スンジャと三人で暮らしている。民泊(部屋貸)と自作の携帯ストラップを売る貧乏暮らしだ。キム・セロンは貧困家庭で健気に働く少女スニョンを演じた。この貧乏家庭に叔父がアメリカ人父娘を連れてくる。叔父はスニョンを養女に出して斡旋料を稼ごうとしていた。韓国では海外に養子で出されるケースが多い。「冬の小鳥」もそうだった。イ・ヨンエ主演の「親切なクムジャさん」でも誘拐された子どもはアメリカに連れて行かれた。
 さて「バービー」の主人公スニョンはアメリカに行かなかった。彼女を買いに来たスティーブの娘バービーがスニョンと仲良くなってしまったからだ。アメリカに憧れている妹スンジャが代わりになった。スンジャは貧しい現実から逃げ、アメリカという楽園で何不自由なく生きられると信じていた。それにスンジャはバービーに嫌われていた。バービーの妹は心臓を患ってアメリカで待っている。バービーは真相を知りスティーブに抗議したが、結局従うことになる。
 上昇志向が強く、貧乏生活に飽き飽きしていた利己的なスンジャをキム・アロンが好演した。スンジャの憎々しげな笑顔が、現実の遣りきれなさを感じさせる。スンジャを待っている現実は、その夢とは反対に生きたまま心臓を取り出される運命だ。
 これは子どもの生体移植を告発した映画なのだ。梁石日の『闇の子どもたち』では、タイの貧困家庭から売られた子どもの命を買うのは日本人だった。カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』は、生体移植用に生み出され育てられる子どもたちの物語だった。それぞれ映画化された。映画「わたしの中のあなた」は姉に臓器などを移植するために生まれた妹の話。原作は読んでいない。主演アビゲイル・ブレスリンもまた天才子役として名を馳せた。
 一つの生を守るため、別の命を犠牲にすることは許されない。許してはいけない。

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