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2013年12月 3日 (火)

いとうせいこう『想像ラジオ』

文学は「死者の声」を聞く作業だ !!

 11月30日浦和の埼玉文学学校で登芳久さん講義に出席した。登さんの話は「身体感覚の喪失」といったようなもので、仕事がパソコン作業中心になり、臨場感がなくなっていき、マニュアル化で実体験が不足しているので、職場を描いた場面が知識不足で表現が浅い、というようなことだった。身体感覚を失うと想像力も失う、というようなことも話された。
 なるほどなるほどと拝聴したのだが、現実に四肢の筋肉をあまり酷使することのない職業が増えているので、「身体感覚」とはなんぞやという疑問が湧く。
 その日の二次会の酒席で、いとうせいこうの『想像ラジオ』に感心した旨の発言をした。「死者の声を聞く」小説だと言ったところ、向かいに座った女性Mさんに「霊魂ってこと」って聞き返された。そうではないのだ。
 『想像ラジオ』はDJアークを名乗る男とリスナーたちのやりとりが中心なのだが、このDJは〈あなたの想像力の中でだけオンエアされる〉「想像ラジオ」だというから変わっている。妻子のある38歳Uターン中年が、軽快に語りかける想像ラジオ。3・11震災後、彼は杉の巨木の上で仰向けになって放送している。
 リスナーはさまざま。スーパーで野菜の仕入れ担当をしている北関東のアブラナさん。箪笥屋のアタリさん(実は中学の同級生だった前田陽子さん)は、いったん逃げたが預金通帳を取りに行って津波に呑まれた。海の宿に宿泊中だった会社役員キミズカさんは部下を探している。半ば寝たきりの大場ミヨ・キイチ老夫妻もいる。
 匿名希望の女性は〈冷たい水の底へとたぶんゆっくり落ちて〉いる。

自分の手足も、揺れて動く長い髪も、破けて体にまとわりつく衣服も、光をひと粒残らず奪われているから私には見ることが出来ません。まさしく想像以外に私の存在を確認するすべもなく、実際には水圧が重くかかっていて口も開けられないし、唸り声ひとつあげることが出来ないほど衰弱している。DJアーク、あなたは私の声をたくさんの方々に伝えてくれます。あなたに話しかける他、私は私がいると確信することが出来ません。

 これは死者の声なのだ。霊魂とか、幽霊とかではなく、死者の声を聞こうという試みがこの小説である。死者の声は想像力を駆使したリスナーにしか届かない。死者はリスナーがいなければ、深い闇の中で自己の存在を確認することができない。そう、この小説の素材は3・11東日本大震災だ。3・11の犠牲者の声を書こうという大胆で果敢な挑戦なのである。
 『想像ラジオ』のDJは自らが死者でありながら、死者たちの声を集めている。そして彼は生き残った者たちにも声を届けようと努力する。DJアークは想像ラジオを通して妻子に呼びかける。その声は届かないのか、妻子の声が彼に届かないのか分からない。
 『想像ラジオ』は死者の声を生き残ったものが聞く(読む)という試みでありながら、死者たちも生者の声を聞こうと努力する。それはお互いに想像力を駆使した努力が必要になる。『想像ラジオ』は小説という形をとることにより、生者に届く死者の声だ。そう考えてみると、存在感や身体感覚も想像力なしにはあり得ない。
 想像力の産物である文学は、結局死者の声なのではないか? 作者が存命だとしてもだ。たとえば大江健三郎。自己の老年を含めてカタストロフィーに向かいつつとはいえ、生者である彼が書いた作品もまた、死者の声なのだ。金石範の『火山島』など済州島四・三民衆蜂起を題材にした小説もまた、犠牲者たちの声を私たちに届けようという試みであった。金泰生はまさに在日朝鮮人の死者の声を私たちに届けてくれた。
 良き文学作品読むことは、想像力を恢復し死者の声に耳を傾ける機会を得ることに繋がる。私たちが日々身体感覚を失い想像力を奪われていく過程は、文学によってしか恢復されないのではないか。
 『想像ラジオ』のDJアークはリスナーの声を紹介するあいまに曲も流している。知っている曲もあれば、音楽に詳しくない私には馴染みでない曲もある。知らない曲の中から一曲、ボブ・マーリー「リデンプション・ソング」を紹介する。想像して聞いて下さい。
訳詞は、下のブログに紹介されていたので参考まで。かっこいい詩です。
http://yacco369.ti-da.net/e3423697.html

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