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2013年11月29日 (金)

kindle版 大江健三郎『晩年様式集 イン・レイト・スタイル』を読む理由

老年に至る過程で文学はどうやって抵抗するのか!?01_2

 この秋から冬にかけていろいろ生活の変化があった。最初にパソコンを買い換えたこと。WindowsXPのサポートが来年4月に切れると言うのでWindows8PCの購入を決めた。XP歴が長かったので新しいPCに慣れるのに時間がかかった。しかし64bitPCになったせいか確かに高速化した。立ち上がりが速い。
 12月10日付けで印刷会社の退職が決まり、残った有給を11月7日から消化している。運動不足が恐いのでウォーキングすることにした。有酸素運動だ。そのためにニューバランスの安いジョギングシューズを買い(走らないが)、古いスニーカーを捨てた。
 トイレのスリッパを買い換え、トイレの暖房も新しくした。これは米寿の母が寒いトイレで倒れるのを防ぐために必要だ。去年までのヒーターの温度センサーが狂って無駄な電気を使用していたので、人感センサーのエコタイプをネットで探した。
 古いテレビが時々映らなくなったので、我が家のテレビもやっと液晶モニターになった。これも母には必需。なにしろやれることが少ない。カタストロフィー目前状態。
 高血圧で通院していた病院を変えた。担当の若い内科医が退職して、代わったオヤジの先生が厭な奴で(個人の感想です。本当は熱心な先生かも)行く度に検査されるので、自宅からすぐ近くにできた医院に変更したのだ。
 「もう印刷の時代じゃない」と思いながら漠然とインターネットを見ていたらamazonのkindle New Paper Whiteが欲しくなったので、すぐ購入した。明るい黄緑のカバーもつけた。思ったよりスマート。老眼の身としては文庫本より読みやすいし、目に優しいのか疲れない。
 で、kindle版 大江健三郎『晩年様式集 イン・レイト・スタイル』をダウンロードした。電子書籍というのは、読みたいと思った瞬間、たとえ真夜中であったとしても手に入れることができる。それに何冊買っても嵩張らない。紙の本より安い。古典だったら0~100円くらいで買える。紙の本で買えないものが手に入る。
 大江は前回『水死』発表で小説書くのをやめたのかと思っていたが、そうでもなかった。前もって言っておくが、わたしは大江ファンないしは大江文学の熱心な読者ではない。ただ『水死』を(紙の本で)読んだ後、興味を引きずっていた。父の死の真実に辿り着く工程に、「明治の精神」を振りかざす悪意との対決が見て取れたからだ。その後の大江が原発反対運動の一員として戦っている姿にもシンパシーを感じた。『イン・レイト・スタイル』は、3・11を経た老作家がカタストロフィーに隣接して生きる姿そのものだ。
 大江健三郎自身を仮託した作家長江古義人と障害のある音楽家の息子アカリ、娘真木、古義人の親友で故人である映画監督塙吾良の妹で妻の千樫、四国の森に住む妹のアサ、少年時代の兄貴分であったやはり故人のギー兄さんの息子であるギージュニアなどが登場する。同じ登場人物たちは前作『水死』など複数の作品にも出てくる。『イン・レイト・スタイル』は、その登場人物たちからの、長江古義人に対する批判を織り交ぜている。千樫、アサ、真木の「三人の女たち」は私家版雑誌『晩年様式集+α』を発行する。それは、古義人の小説のなかで一面的に書かれてきた彼女らの反論だった。この小説自体が、主体を古義人と三人の女たちがそれぞれ受け持って変化していく。書く側が書かれる側の批判ないしは不満を受け入れた作品と言うのは珍しい。『水死』で障害を持つ息子に対して「きみは、バカだ」と言ってしまってからの不和が全体の背景に存在する。「ノーベル賞作家」でも凡庸で低俗な価値観を排除しきれない。
(これを書いていて、電子書籍の不便に思い至った。線を引いたり、書き込みをしたページに付箋を貼って、その付箋を指でつまんで開くという物理的な作業ができない。似たような機能はあるのだが、慣れない。)
 冒頭、3・11後小説を書く興味を失い、余震の続くなかウーウー泣く老作家の姿が、地震・放射能、そしてこの作品ではまだ触れられることがないが、「特定秘密保護法」の制定に象徴される国家主義化に恐怖する姿なのだと思われる。
 日本が破滅に向かうなか、老年の作家は自己の死をおそらく覚悟しながら、希望の言葉を残す。

小さなものらに、老人は答えたい、
私は生き直すことができない。しかし
私らは生き直すことができる。

 そんなふうに思っていなけりゃ抵抗もできないか? 東京でオリンピックなんて脳天気なこと言ってる大半に文学は抗えるのだろうか。
 『新潮』12月号に「大江健三郎ロングインタビュー」が掲載されていたので(もうすぐ失業の身なのに)899円も払って買ってしまったが、完全版は新潮文庫に収録されると分かりがっかりした。kindleでも販売すると良いのだけれど。『文藝』掲載の「いとうせいこう『想像ラジオ』を語る」はkindleでダウンロードできるのだ。

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コメント

キンドルの線引き、付箋もいずれ慣れるんでしょうね。でも、その部分を読んで、ふふふと笑った。私はキンドル買わないぞ、と。

『水死』読んでません。私は結構、大江を読んでいる方だと思う。このブログで、これと、『晩年様式集』を読む気になりました。
私も今年六月にウィンドウ8のパソに更新。使いにくかったけど、やっぱり慣れてきています。
十二月七日に会えるのを楽しみにしています。
では、また、そのときに。

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