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2013年10月17日 (木)

【書評】金重明『物語朝鮮王朝の滅亡』

安直な「民族主義」を超えた民衆的思想史

 よい意味で裏切られた。李朝末期の政治史が語られると思っていたところ、むしろ思想史中心に、朝鮮内部の支配層の腐敗と、それに抗する実学者たちの果敢な戦いが語られた。
 テレビドラマでお馴染みの英祖・正祖の時代から、政権が腐敗し、日本帝国主義の支配を受けるに至る過程での、朝鮮の人々の考え方の変遷である。
 英祖といえば「トンイ」の子であり、正祖は「イ・サン」のことだ。党派党争に明け暮れた時代にあって、英祖・正祖は中興の名君と言われた。彼らは頑迷な老論派を抑えて実学的改革を進めていく。
 ドラマ「イ・サン」を見た人は思い浮かべてほしい。正祖を演じたのは、イ・ソジンだ。そのさい、キム・ヨジン(「宮廷女官チャングムの誓い」で主人公を助ける済州島の医師役を好演した)が扮した貞純王妃が悪い。英祖の51歳年下の後妻で、老論派に抱き込まれ英祖に讒言し、王世子を抹殺した。
 英祖・正祖の時代に、朴斉家や丁若鏞などの実学や民本主義を重視した近代的思想を持った官僚や思想家たちが活躍した。正祖はドラマのとおり朝鮮の改革を推進するが、結局は貞純王妃一味に政権を奪われ、改革派は処断され一掃されてしまう。どうやら正祖も毒殺されたらしい。こうして貞純王妃の外戚による勢道政治が始まり、実学と西洋の新しい技術やキリスト教は弾圧された。民衆は死ぬほど搾取され、国は乱れていく。
 一方、日本は明治維新を経て近代的帝国主義国家へと変貌していく。日本が本格的に朝鮮侵略に乗り出したとき、朝鮮は閔妃政権の下、汚職が横行して民衆は苦しんでいた。この好機に乗じて、大日本帝国は朝鮮での権益確保を狙って動き出す。先進の欧米帝国主義に倣ったのである。「脱亜入欧」とはこのことだ。本書で著者はこの点に関して、いわゆる「征韓論」について言及していて、特に福沢諭吉と西郷隆盛の文明論を対照して紹介している点は興味深い。「脱亜入欧」の福沢に対して、西洋を野蛮と喝破する西郷を比較したのだ。弱肉強食文明論に仁義と王道の思想を対峙させて見せたのである。
 朝鮮では圧政に対して東学党を中心とする農民軍が蜂起し、朝鮮半島南部の全羅道を支配下に置くまでに広がる。その思想は〈当時、人として遇されることのなかった嫁や子供をも、ひとりの人間として対しようとした〉もので、いわば徹底した平等主義といえよう。19世紀のアジアでは最先端の思想ではないだろうか? 
 1894年、朝鮮政府軍と農民軍はすでに和約していたが、日本軍は王宮を攻撃して親日派政権を打ち立てた。この日朝戦争が日清戦争の始まりだった。朝鮮農民軍は再度蜂起し日本軍と戦うが、充実した近代的武器と「殺戮」「殲滅」を徹底した日本軍に、血を流さずに勝つ者を軍功第一とし、田畑を荒らすことを厳禁とする農民軍では抗いようもなかったと言えよう。
 一方西太后の清は、このころすでに腐敗滅亡の道を転がり始めていた。日本側では、勝海舟は日清戦争に反対していた。この本では朝鮮の思想だけではなく、勝海舟や西郷隆盛ら明治維新期のリーダーたちの、反帝国主義的な思想にも触れることができる。
 朝鮮の近代を語るのに、「民族」対「民族」といった空想的でご都合主義的な構図が跋扈している。それに対して、「腐敗した支配層」対「民衆」、「帝国主義的侵略主義者」対「義をもってする反帝国主義」という当たり前の視点が提出される点がむしろ新鮮だ。著者自身の柔軟な思想が垣間見られる。
 朝鮮近代史を学ぶさいの入門書として相応しい。
                                     (岩波新書 20138

金重明さんのブログは下
http://ameblo.jp/europa2718/ 

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