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2012年11月10日 (土)

ワンドゥギ

文学と映画 行ったり来たり 第23回
    ――不急順不同、起承転結なし(主に韓流)
                                       
『ワンドゥギ』キム・リョリョン
              김려령
완득이
              ――差別に負けない爽やか青春小説

 高校生が主人公の爽やかな青春小説だ。タイトルの「ワンドゥギ」というのは主人公の名前。ワンドゥギはケンカがめっぽう強いが、群れて悪ふざけをする不良タイプではない。学校でも親しい友だちがいない一匹オオカミ、孤高の戦士といった風情だ。
 「トンジュ(=糞野郎)」とあだ名される担任教師はやたらワンドゥギに干渉してくる。しかも貧しいワンドゥギの家の隣に住んでいて、ワンドゥギの父親とは仲良くしてしまう。ワンドゥギはいつも教会に行ってトンジュを殺してくださいと祈っている。このあたりはギャグだ。
 ワンドゥギの父はキャバレーでダンスを見せる芸人だが、小人症で身体が小さい。父はワンドゥギに文才があると信じて小説家になるように勧めている。自分の仕事を芸術として矜恃しているが、息子には自分とは違った人生を要求しているように見える。親子は、ワンドゥギの父を慕っていつの間にか居着いた、知的障害のある「おじさん」との三人暮らしだ。
P01  あるとき、母親は死んだと信じていたワンドゥギに、お節介焼きのトンジュが母親はベトナム人だと伝える。突然現れたベトナム人の母親に戸惑うワンドゥギ。
 韓国では農村を中心に嫁のなり手が少なく、最近はベトナムなど東南アジアや中国東北部の朝鮮人自治区などから嫁を買ってくることが多くなったようだ。
 実はトンジュは不当労働で虐げられる外国人労働者たちの支援活動をしていて、生活費を使ってしまうので、一杯いっぱいの生活をしている。ワンドゥギの通う教会も、建物は十字架が架かったままだが、トンジュが買い取って、外国人労働者のための福祉施設兼運動の拠点として使われていた。

    韓国国内の外国人は、2007年8月に100万人を突破した(以下、数値はいずれも2007年8月現在)。これは、韓国の住民登録人口4913万人の2%に相当する。
    (韓国における外国人問題―労働者の受入れと社会統合―白井 京)

 韓国社会は多文化共生の方向へ向かいつつあると言われる。しかし、現実には長い儒教支配の歴史が培った、根強い外国人差別が国民の中にはびこっているとも言える。女性差別意識も強い韓国で、ベトナムの花嫁候補に、処女かどうかの検査を受けさせていたという報道が話題になったこともある。
 ワンドゥギという存在は、権威主義社会に於ける徹底したアウトローである。被差別的シチュエーションを以て生まれ、社会の権威的方向に流されないで存在する。そして、キックボクシングの道場に通い始め自分の道を探す。しかし、プロの世界ではそう簡単に勝てるようにはならない。ワンドゥギは気持ちよくTKOされる。現実は甘くない。
 甘いのはクラスのチョン・ユナと親しくなったことだ。青春小説に恋愛はつきもの。ワンドゥギとは対称的に恵まれた家に育ったユナだが学校ではシカトされている。しかし、ワンドゥギ同様この子もめげない。戦場記者になるという目的を持ってソウル大学を目指している。S_2
 『ワンドゥギ』は明るく爽やかでギャグ満載の笑える小説なのだが、背景に描かれたのは、障害者差別、外国人労働者問題、東南アジアからの花嫁問題、学校でのイジメ、差別社会での女性の自立意識、経済格差などの重い課題だ。
 現代社会の複雑さのなかで戸惑う若者の葛藤が、小気味よくて感じが良い。
 初版は2008年だが昨年映画化されて、小説も再び売れたようだ。映画のほうも主人公役のユ・アインの人気もあって大ヒット。物語はだいぶ脚色されているようで、原作には出てこない美人が出てくる。ワンドゥギの母親もベトナム人ではなく、フィリピン人ということになっている。これは俳優の都合かも知れない。

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